スイッチ
帰り道、彼と私は車の中で手を繋いでいた。そんなのは私と彼の歴史上初めて。彼が運転しながら言った言葉。
「俺とあなたは死ぬまでこうやっていくんだよ。ジジイとババアになってもさ。どうだ?なかなかないぞ。」
私は「そうなったら素敵だね。歳をとるのも悪くないね。」
「悪くない」と彼。
ホントにそうなりたいと思った。大人の割り切った関係でいようと思っていた。もうドロドロした恋愛はこりごりだし、彼の家庭も私の家庭も壊す気など毛頭ない。ただこうしていられればいい。
彼が私の身体を褒めてくれる。現役だと言っても分からないと。私は恥ずかしくて「じゃあ、他で試してみようか」とちょっとふざけて言ったら
「試す…そしたら言えよ!?…止めろ!」
とピシャリと言われた。
「よかったー。やって来いって言われたらどうしようと思った。ハイ。」
何故か「ハイ」になる。嬉しい。こんな言葉も言われたことがない。私が他の人と付き合っていると言っても何も言ったことがない彼だったから。今迄はその場かぎり。次の約束なんてしたこともない。こうして2回、短い期間に会うのも初めて。
勝手に、私と彼の第2章、いや、第3章の始まりと思った。
翌日、彼からメール。私の身体を気遣ってくれた。大丈夫か?心配してると。ホッコリした。ありがとう。優しいね。
で、割り切った大人の関係と思った私なのに…その日から彼のことが頭から離れない。
青春の学生時代に抱いていた、叶わなかった恋の未練なのか。ううん、違う。彼は私にとっていつだって大好きな人だったんだ。他の人とどんなに深く付き合っても、彼に対する想いは何故か変わらなかった。会社の飲み会で男性が「女の人は男性を上書き保存なんだってね」と言ったことがある。その時の私の返答は、「そういう人もいるけど、別ファイルに保存の人もいるよ」だった。彼のこと。「1番好きな人と結婚できなくて良かったと思ってる。ずっと好きで居られるから」なんて酔った勢いで持論をぶちまけていた。
でも、彼の言うペースにならないようにしよう。だって、きっと私は彼を束縛したくなり、彼は束縛を嫌がり、結果、ダメになる。そうなりたくない。
なのに…。
私は身体と心にスイッチが入ってしまった。
休みの日に家にいると彼のことばかり考えしまう。非常にマズイ傾向。で、1人で前から見たかった映画を観て、気分転換のショッピング。夕方帰ろうとしたところに彼からメール。
「忙しいか」って。
「忙しくはないけど身体が困っている」と返す。
「どうした?何か問題発生か?」
「スイッチが入ったみたい」
「俺もしたい」
ストレートな人。
結局、前回から2週間程で会うことに。
そうならないようにしようと思っていたのに…私は会いたい気持ちが抑えられない。
抱き合った瞬間に
「大好き」と私の口が勝手に動いた!
彼は「ふふっ」と笑っただけ。こら!私の口!私に断りも無く勝手なことを喋るな!彼の重荷になりたくないから。
2回目はローションは無し。1回目と比べものにならないくらい身体が反応する。
イケなかった私を彼が気にしてくれる。
「どうやったらイク?」
「まだリハビリ2回目だから」
「次はイクこと目標な!」
そして帰りの車の中で、早速次会う日を決めてくれた。
次会う日までの間、私の心は揺れていた。会うたびに彼への想いが募ってしまう。やっぱり止めるべきだったんじゃないか?正しい道は「止める」こと。でも…こんな風に会えるようになった彼を失いたくない。彼はどうだろう?他にも彼女がいるんだから、どうってことないんだろう。私だって元に戻るだけ。もうよそうか?想いが乱れていた日、彼からメール。
「スイッチを入れられたのは貴女だけではないらしい。マズイ。」
途端に雲が晴れたようになった!嬉しい!やっぱり止めるなんて無理!
「私たちは2人でパンドラの箱を開けたのかもね。」
「分かる。ヤバイな。」
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